「3G携帯であれば、パケット通信機能もあってデータ通信もできる。 “人”を中心に考えれば、携帯電話という既存の通信インフラを車の中でいかに安全に利用できるようにするかが重要。そうした考え方をベースに、モバイルキャストでは『3Gパーソナルテレマティクス』を提唱している。カーナビのような車載端末でのテレマティクスを指向する日本の自動車メーカーとは違った方法で、独自のテレマティクス・サービスを実現することを目指している」
――Bluetoothを携帯から、音楽の分野へと広げてきましたね。「カーソリューションをめざすうえで、まずは車の中でストレスなく通話ができるようにするということを実現したかった。さらに車内空間は極めてプライベートな空間。日本の住宅事情を考えると、部屋で音楽を大音量で聴くことは難しくても、車の中であれば好きなように聞くことができる。通話(コミュニケーション)と音楽(エンターテイメントの2つをカーソリューションのさきがけとして広めていきたい。」
――Bluetoothを使うことで何ができるのでしょうか?
「Bluetoothの特徴は、プロファイルと呼ばれるソフトウェアを持った短距離無線通信技術であるという点。プロファイルの種類によってできることは異なる。ハンズフリープロファイルと音声認識によって、電話がかかってきたときに、ハンドルから手を離さずに音声命令を認識して電話を取ることも可能となる。データ通信用のプロファイルが入っていれば、携帯の電話帳をカーナビのモニターやハンズフリー専用モニターに転送して表示することができるし、音楽用のプロファイルが入っていればワイヤレスでステレオサウンドを聴くだけでなく自由に選曲してボリュームも変えることができる。ハンドルから手を離さずに携帯も音楽も操作できれば、運転にもさほど支障をきたすことなく車内空間での時間を楽しむことができる。ソフトウェアのバージョンアップによって、可能性はもっと広がる。ただ、現在の日本で使える携帯電話には、ハンズフリーのプロファイルしか搭載されていない。」
――日本は、かなり遅れている。
「ノキアやモトローラは、携帯電話にデータ通信用のプロファイルを積極的に搭載し始めているし、サムソンは他社に先駆けて音楽用のプロファイルを携帯電話に搭載し発売を開始した。当社も音楽用プロファイルを搭載したアダプターを開発し既に商品を販売している。国内では最先端のプロダクトだと自負している。さらに欧米の自動車メーカーは、VRM(ビークル・リレーション・マネージメント)の観点からテレマティクスを推進している傾向がある。人間も予防医学によって健康を維持するように、車もタイヤの空気圧やエンジンオイルなどの状態を常時モニタリングし、Bluetoothなどの通信を活用して情報をセンターに送り、管理する。また環境(エコ)対策の観点からもテレマティクスの需要はある。自動車の使われているメカニックのあらゆる配線がワイヤレス化すると車体の軽量化につながる。」
――利用者の視点に立ったアプリケーションが大切ですね。「既に運用しているサービスとして『アウディ・クラブ・コンシェルジュ』がある。アウディのハイエンド・モデルの車種のオーナーに、道路交通情報や駐車場情報の提供から、ホテルやレストランの予約までも行うコンシェルジュサービスである。また、スクールバスに端末を搭載して、父兄や学校の先生の携帯に運行状況などの情報を提供するサービスもすでに運用している。子供の安全確保ということで、行政の関心も高い。さらにハンズフリーは携帯電話だけでなく、PHSやIP電話などのビジネスマーケットにも広がり始めている」
――最後に起業をめざしている方にアドバイスを。
「うまくビジネスが回り始めたから言えることかもしれないが、自分でこうだと思ったことは最後までやり通すことが大切だと思う。私が丸紅を辞めたキッカケとなったのは、まだ立ち上がったばかり事業への出資を求めた際に、上司が『不透明なことだからやらない』と言って断ったこと。新規事業が不透明なのはいつの時代だって当たり前のことで、それを成し遂げなければソニーもホンダも生まれなかったはずだ。最初のチャレンジには潜在的なパワーが必要だ。思いを貫き通すこと、信念を忘れないことが周囲の人たちの信頼を得ることにつながり、その人たちに支えられて事業が成り立っていく。感謝の気持ちを忘れてはいけない。最近は、株式公開を急ぐベンチャー企業も少なくないが、モバイルキャストは地に足の付いた経営をし、社会に貢献することを目指したい」